鳥善瀬尾 [ BCS 実績紹介]


クライアントである主人(オーナ)は約10年の下積みを経て30代半ばという脂の乗り切った時期に開業をされました。それまで私が抱いていた焼鳥屋に対する概念は、赤提灯に煙る中で冷酒を煽りながら串を頬張る・・・といった非常にチープで大衆的なイメージでした。そこでまずこのイメージを打破するべく『脱・焼鳥屋 超・焼鳥屋』というテーマでコンセプトメイキングをおこないました。

主人が焼く焼鳥は斬新かつ実に滋味です。(旨い!焼鳥に対する概念が変わりました・・・)またカウンター越しから主人の焼き上げるまでの一連の動作を眺めているのは寿司屋に似て快活で愉しいもの。一方、炭と対峙し格闘している姿は他を寄せ付けない殺気を感じるほどストイックで、次代を担う若手料理人としての期待感を抱かされます。私はこの光景と供される焼鳥の素晴らしさを表現するにあたり『和(伝統)とモダニズムの融合』というコンセプトを掲げました。

【空間演出の柱としたもの】

  • 主人の仕事場であるカウンターを伝統芸能(能や歌舞伎)の舞台に見立てる
  • 伝統芸能の舞台に見合う本格指向の店内空間
  • 客席からは見ることができない主人が格闘する炭火の炎をお客様に感じてもらう
  • 主人の匠な技とエネルギッシュな側面を衣装で表現する
  • 格闘の末に生み出された「串(焼鳥)」にふさわしい器を得る

煌々と燃え滾る紅の炭火を背景に主人が浮かび上がり、まるで舞台で技を演じているかのような世界・・・が表現できたのではないかと自負しております。まさにこの光壁こそが店のブランドアイデンティティーを表現する柱となっています。そしてこの光壁を使った演出としては、店の営業が23時のラストオーダーを迎えると炭の火を落とし、それに合わせるかの様に光壁の色も紅から青へと変わります。クールダウンした青い光壁は今までの店の表情を一変し、妖艶なBARを連想させる空間へと様変わりします。ここからはグラスを傾けてゆっくりと余韻を愉しんでいただける空間へと移行します。

一方、この店の特徴である“鰻の寝床”の様な細長い形状はともすれば空間に圧迫感をもたらすものですが、店舗奥バックヤードとの仕切り壁を前面鏡張りにしてカウンターがどこまでも続くような奥行き感を出すことでそれを解消。また壁下の床に間接照明を設置しまるで飛行場の滑走路を想わせる直線的な光のラインがカウンターと平行して鏡の奥まで走る演出を施すことで店舗全体のイメージをよりシャープかつスタイリッシュに仕上げました。

“舞台で演じる”主人の衣装をつくりあげるにあたっては、まず念頭においたのが主人の「技」をいかに表現するかということ。これに作業着としての機能性を持たせながらも“舞台上の役者”としてふさわしい「衣装」をどう作り上げるかというところから始まりました。「技」を表現するにあたり意識したのが「とび職」や「宮大工」。彼らの足元を引き締めているのが金具で固定された地下足袋。主人の技を表現する腕(手元)を同様に引き締めることで、職人の雰囲気を醸し出しています。またもう一つの要素である主人のエネルギッシュな側面を衣装にどう反映するか思案しまして、格闘技である「テコンドー」のユニフォームのエッセンスを取り込むことによりスポーティーかつ軽快で、主人の持つ「熱気」を包含することができたのではないかと思っております。

器は若手陶芸家の鬼才と評される内田鋼一氏のものを採用。店舗業務使用としては非常に高価な器ですが、格闘する料理人にふさわしい土と格闘する陶芸家とのコラボレーションが実現。奇遇にも同年代となる料理人と陶芸家の運命の出会いであると思っています。

この店がターゲットとする客層は30代以降のエグゼクティブ層をメインとしているので、空間に関してはミニマルかつ本物志向を心がけました。例えば飛石は造園家により小田原・根府川産の石を採用してアプローチを造りました。建具(格子戸や欄間)は会津若松の古民家から移築し、個室の壁は漆を染み込ませた和紙を張り付け茶室のテイストを取り込むなどディテールにまでこだわっております。またディスプレイされている骨董は収集家とのコラボレーションにより定期的に展示替をしており、希望があれば購入もできるスキームを作り上げました。これは「骨董」をディスプレイすることで店のグレード感を醸し出すだけでなく、「骨董」に関心を持つコミュニティ(顧客層)との接点を持つ上でのツールという位置付けを持っています。ターゲット層であるエグゼクティブ層の嗜好に合致するであろうと思われる「骨董」を通じ、来店顧客とより密度の濃いコミュニケーションを達成するというマーケティング戦略が内在しています。



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